ある学徒の手記
株式会社トミーウォーカー運営の学園伝綺PBW『シルバーレイン』のキャラクター視点の手記。
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DATE: 2006/09/04(月)   CATEGORY: SS
出陣儀礼
 ―2004年3月末 東京都内某所にて

 閑散とした公道。広がる畑。青い空。
 我らが比留間イドは、その中で静かに静かに次のバスを待っていた。

「お嬢様、いよいよですな」
 万能乳母こと『ばあや』は、思い出したように口を開いた。
「‥はい」
「お嬢様。これより、訓練の総仕上げをさせていただきます」
「はい、どうぞ」
 一瞬の沈黙。風が吹いた。

「比留間家の信条とは?」
「質実剛健。
 質実以て起居を律し、剛健なる士風を作興し、旺盛なる士気を振起すべし。

 生活は簡素ならざるべからず。不自由は常なるを思い、毎事節約に努むべし。
 奢侈は勇猛の精神を蝕むものなり」
 イドはよどみなく、一瞬の躊躇もなく答えた。
 満足げに万能乳母は目を細める。

「ではお嬢様の信条とは?」
「長生きだけを願うなら、人は獣と変わりなし。
 二つなき身を惜しまずに、我が身は進む仁のため!」
 ばあやは満面の笑みをこぼした。かすかに目じりが涙ぐんでいる。

「お美事、お美事です、お嬢様。この12年間‥‥本当に良く耐えなされた」
「‥‥」
 道路のずっと先に、バスの姿が見える。もう、時間はない。
「もはや、ばあやから申し上げる事は何もございません」
「‥‥っ。ばあや、私は‥‥」

「お嬢様は、わたしくしめの自慢の教え子です」
「‥‥」
 思わず泣きそうなるのを、唇を噛んで我慢する。自分の為に泣くのは、ずっと昔に止めたから。
「これにて訓練終了! どうが存分にご活躍なさいませ!」
「ありがとう‥‥っ、ござい‥‥ます!!」
 比留間立ち上がり、万能乳母に最大限の敬意を払う為深々と頭を下げる。
 涙がこぼれたのはしまったと思った。

 やがてバスが停車し、乗車口のドアが開く。
 イドは頭を上げ、自分の手荷物を持つ。では行って参ります、そう短く別れの言葉を述べて
 颯爽とバスに乗り込んだ。
 それきり、決してばあやの方を振り向かないまま、バスは停車場を出発した。

 イドを乗せたバスが見えなくなった後、バス停に一人残されたばあやは静かに微笑んだ。
「ほほっ、良い風を纏うようになられた‥‥」
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