ある学徒の手記
株式会社トミーウォーカー運営の学園伝綺PBW『シルバーレイン』のキャラクター視点の手記。
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DATE: 2006/12/08(金)   CATEGORY: SS
不屈の眼鏡
 ―2004年7月 鎌倉・深夜

「はっ…はっ…はっ…はっ…」
 比留間・イドがどことも知れぬ裏路地を駆け抜けている。
 駆け抜ける? 否、追い詰められていると言った方が正しいか。
「ッ!!? 不覚…行き止まりか…ッ」
 己の判断を悔やみつつ、視線を左右に振る…が、逃げ道は見当たらない。
 まんまとハメられたのだ。
「鬼ごっこはおしまいね、お嬢ちゃん」
 程なくして、下半身が蛇の女がしたり顔で現れた。人は彼女を、リリスと呼ぶ。
「…はっ…はっ…はっ」
「何ていうか…あなた、普通の人とは違うのよねぇ。
 うまくは説明できないけど…まあ、つまり…そう」
 とても『美味しそう』なのよね。そうリリスは言いながら距離を詰めてくる。
「…ッ!!」
 苦し紛れに、比留間は歯を食いしばって構えた。
 勝てるのか、詠唱兵器を持たぬ己が。
 勝てるのか、今だ能力者として覚醒していない己が。
 恐怖で奥歯がかみ合わない、手が、膝が、早く逃げろと震えているのが嫌でもわかった。
「…。いただき、ま…」
「積極ッ!!!!!」
 瞬間、目の覚めるような正拳突きがリリスのアゴに叩き込まれた。
「ッ!!!?」
 常人ならば、これで脳震盪を起こして気絶するであろう威力。だが。
「シャッ!!!!」
「うあっ!!!?」
 相手は化け物だ。比留間は相手の放った衝撃波で吹っ飛び、近くの壁に叩きつけられた。
 蟲のようにうずくまり、必死に呼吸をしようと口を動かす。
「がっ…はっ…!!!」
「驚いた…まさか抵抗してくるなんて。本来なら、活きがいいのは歓迎なんだけど…」
 みるみる相手の殺気が膨らんでいくのがわかる。
「『顔』に当てるのは、いただけないわ」
「       」
 数秒の空白の後、比留間は自分が滅多打ちされている事に気がついた。
 相手はこのまま自分をなぶり殺しにする腹づもりか。
(「くそ…抵抗…。拳を固め…な……っ」)
 無理だ。勝てない。
 比留間がそう諦めかけた、その時だ。

「そこまでだ」
 男の声が夜の街に響く。
(「…声?」)
 ぶつぶつと途切れる意識の中、少女は天を仰ぐ。
「そこまでだ、化け物(ゴースト)」
 時が静止した摩天楼の頂に、サラリーマンが腕を組んで立っている。
 誰だ。いや、何だあれは。

 時代遅れの四角い大型レンズ。
 風に揺れるくたびれたネクタイ。
 分け目がはっきりと見える七三分けの髪型。
 ついでに中年だ。
「…何、あれ」
 リリスもあまりに不条理な展開に、思わず攻撃の手を止める。
「通りすがりのサラリーマンだ」
 それだけ言うと、サラリーマンはビルの屋上から飛び降りてきた。
「な…!!?」
 どがん、と盛大な音を立てて着地成功。
 コンクリートに靴底の跡が残ってしまったが、まあご愛嬌というものだ。
「お前達の時間はおしまいだ。家に帰れ」
 手に持っていたカバンを投げ捨て、ファイティングポースをとる。
 そして。
「シャッッッッ!!」
 電光石火の速度で踏み込み。
「アがっッッ!!!?」
 リリスの体を宙に浮かせた。

「ぁ…う…」
 比留間は眼前の闘争に魅入られていた。
「ッ!!? な…んなのよ! 何で、何であたしがただの人間なんかにぃぃぃッ!!!」
 唐突に現れたサラリーマンは感動的な体裁きで、真正面から堂々と怪異と渡り合っている。
 リリスの攻撃は、もはやむなしい。
「いつだってそうだ」
 サラリーマンが不適に微笑む。
「いつだってそうだ。世を守るのは、人々の盾となるのは」
 苦し紛れの攻撃を流し、反射的にリリスを蹴り上げる。たまらずビルの屋上をめがけ壁をはいずり登っていくゴースト。
「覚悟を決めた、腹をくくった、どこにでもいるただの人間ッ!!」
 それを追って壁を疾走するサラリーマン。世の摂理に反逆しながら空へと駆け上り、歯をむき出して笑う。
「報酬なし! 労働時間無制限! だが!!」
 屋上で四股を踏み、両拳を天にかざす。
「それで十分! それで十分ッ!!! 俺がお前らと戦うにはそれで十分ッッッ!!!」
 大気中にけぶる銀の粒子が激しく振動を始め、サラリーマンの両手に収束してゆく。
 拳を重ね、振り上げる。狙いは一点。リリス。
「完成せよ! 龍 撃 砲ッッッッ!!!!」
「や…め…ッ!!!」
 夜空を、一筋の閃光が貫いた。

「…」
 投げ捨てたカバンを拾いに戻ってきたのか、
 かの男は大口を開けたまま硬直している比留間の前に戻ってきた。
「やぁ、こんばんは」
 はと、我に帰る。
「こ、こんばんは。…助けてくださって、ありがとうございます」
 丁寧にお辞儀する比留間に、微笑みで返答するサラリーマン。
「いや、礼には及ばない。あたりまえの事をしただけだからね」
 命を懸けて他人を助けることを、『あたりまえ』と言うのか、この人は。
 比留間は驚いたように目を見開く。
「…。君にいいものをあげよう」
 唐突にサラリーマンは自分の眼鏡を静かに外し、比留間に差し出した。
「…え。わ、私、目は悪くありません」
「それは矯正の為の眼鏡じゃない。人々の悲しみをみつける為の眼鏡だ」
 瞳の奥に炎を宿したサラリーマンはおごそかに語る。
「それは気合の入った正義の眼鏡。
 核の炎にも耐え抜き、粉々に粉砕されても
 不屈の闘志で復元する魔法の一品。そう、それはつまり」
 希望のようなものだ。男は言いながら照れくさそうに頭をかいた。
「………」
 卵を握るように慎重に、比留間はその眼鏡を握り締める。
「君には『能力者』の才能があるね。それは特別な才能だ。
 よく考えて、自分が納得のいく、他人に誇れる使い方をしなさい」
「…はい」
「それじゃあ、僕は行くから。

 …ああ、その傷は、悪いが自分で手当てしてくれ。医療は僕の専門外だ。
 何せサラリーマンなものでね」
 苦笑する男につられて、小さく笑う比留間。
「頑張れ。絶対に負けるな」
 それだけ言うと、男は返事も待たずに砂煙を上げながら走ってどこかに行ってしまった。

 ―2006年12月 鎌倉
「あの人の名前…聞きそびれたな」
 電車の座席に揺られながら、比留間はそんなことを呟いた。
不屈の眼鏡
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COMMENT

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● 登場人物補足
比留間の中の人 | URL | 2006/12/08(金) 13:48 [EDIT]
名前:サラリーマン(本名不明)
性別:男
国籍:日本

職業:サラリーマン
<解説>
1990年代に戦った世代の能力者。今でも戦いを続けているらしい。
今で言うところの青龍拳士×???。

日本国が世界に誇る気合の入ったサラリーマンであり、その心意気は戦士。
比留間イドが感銘を受けた大人たちの中の一人。

田吾作 | URL | 2006/12/08(金) 20:57 [EDIT]
何せサラリーマンなものでね。

そう、いつだって人の盾たり得るのはただの人間なのですね。
能力者たる者、こうありたい物です。切に。

氷の人 | URL | 2006/12/08(金) 22:20 [EDIT]
企業戦士カッコエエ!
寝る間も惜しんで家族を守る、日本男児の心意気!
くたびれた中年が実は強かったりすると、堪らなく燃えます。
● サラリーマンッ!!
鳳凰堂の中の人 | URL | 2006/12/09(土) 01:40 [EDIT]
爆笑し………たいはずなのに不覚にも燃えた!
ああ、あの人を思い出しましたw
曰く、「単身赴任のサラリーマンさ」www
● 銀雨にも
比留間の中の人 | URL | 2006/12/10(日) 18:52 [EDIT]
親父成分が必要なんじゃないかと思う今日この頃でした。
いや淑女成分も良いですが。

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