ある学徒の手記
株式会社トミーウォーカー運営の学園伝綺PBW『シルバーレイン』のキャラクター視点の手記。
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DATE: 2006/10/06(金)   CATEGORY: SS
【PS・リプレイ】比留間迎撃の用意なし!
 ―体が宙に舞う。弧を描く。水面が見える。

(「起動しろ…受け身を…っ、とらなきゃ…っ」)

 ―既に砕けた心では、四肢に力は伝わらず。
■救出劇
 時は少し戻る。

「あーめあーめ降れ降れかあさーんがー♪ っと」
 チープなビニール傘をさして朽名・ナイアーラトテップ(中学生青龍拳士・b00554)
 のん気に道を歩いていた。
「あ、朽名さーん。こんにちはっ」
 道中、ばったり上澄・明歌(小学生フリッカースペード・b10181)と遭遇する。
 自分の体ほどあるんでないかとビニール袋を抱える彼女に、朽名はこりゃあ大変そうだと苦笑する。
「や、買い物帰りかい? 途中までなら少しは持つけど…」
「あ、大丈夫です。これも訓練ですから!」
 他愛ない会話をしながら、並んで歩く。

 何の事はない日常の一コマ。だがそれは。
「…?」
「…。どうしたんですか、朽名さ…」
 すぐさま『非』日常へと移行する。

 激突する比留間と、『誰か』。
「「…起動(イグニッション)」」
 アイコンタクトすらなく、二人はほぼ同時に起動する。
 一瞬で比留間が対峙する者が、本来はこの世に存在してはならない類のものだと理解したからだ。
 荷物を傘を放り投げ、全力疾走で橋へと向かう。
「あ…!!」
 上澄が小さく声を漏らす。比留間が橋から叩き落された。
「作戦変更! 先輩を助ける!!」
 怪異の殲滅は後回し。叫ぶ朽名に続いて上澄も比留間の落ちた川へと飛び込む。
 瞬間、対岸からの『何か』が視界に入る。
「「…え?」」
「よう。奇遇だな二人とも」
 同じく飛び込んできた狢・蓮(高校生魔剣士・b02738)と、二人は空中で挨拶した。
 瞬間狢は身をひねり、二人の襟首をつかんで自分のいた岸の方へと放り投げる。
「「どぇぇぇえぇっっ!!?」」
「ロープを結んである!! 引き上げをたの…!!!」
 言いかけた状態で、ざばんと狢は濁流の中へと消えた。
「な、何て人使いの荒い先輩だっ」
 上澄と共に体操選手のような身のこなしで朽名は着地し、軽く悪態をついた。

(「イド…ッッ!!!!」)
 水中を突き進む狢。視界は最悪。流れる速度は暴力的だ。
(「…ぃよしっ!!」)
 そんな中で、しっかりと比留間を捕まえる。すぐさま水面めがけて上昇する。
「ぶはあーっ!!」

「…朽名さんっ!!」
「よぉーし!! 引っき上げろぉぉぉぉぉ!!!」

■“イド”とウエト
「………」
 そんな救出劇を、忌々しそうに眺める一つの影。
「余計な事を…」
 あれらも障害か。ならば殺そう。ぞっとする程冷めた目つきの“イド”はそう呟いた。

「そうはいかない。なぜならば」
 あれらは私の結社員だ。
 子犬を脇に抱えた神井・上人(高校生ゾンビハンター・b04328)が立ちはだかる。
 激しく吼える子犬は、本能的に“イド”が危険な存在であると、
 一生懸命に神井に伝えているようでさえある。
「…先輩。邪魔しないでくれます? 何しろこれは本人同士の問題なので」
 殺気のこもった“イド”の視線。

学徒たちの挽歌1

「黙れ化け物(ゴースト)」
 だがそれ以上の、神井のそれ。殺気にあてられ、子犬が小さく震えだす。
「本当ならばてめぇらなど、塵一つさえ残してやるかよ」
「…ク」
 眼鏡で表情を押し殺す神井。ニヤつく“イド”。

「最後は比留間さんに譲ります…。あなたを半殺しにしてから、ね」
「やってみろ」

「「起  動(イグニッション)」」
 必殺の詠唱兵器が今、顕現する。

■役者、舞台に揃う
「おい!? どうした!!?」
 ウォルディ・ウィルウォード(中学生白燐蟲使い・b07730)
 溺れた比留間の介抱をしている三人に出くわし、河原沿いのあぜ道から坂を駆け下りてくる。

 帰路を同じくしていた、マイト・ミツルギ(高校生魔剣士・b08065)
 植松・弾(小学生ゾンビハンター・b02424)の二名もそれに続く。
「ちょ、何走り出して…ねーちゃんっ!?」
「馬鹿野郎! イド、しっかりしろ!! こんなとこで死ぬなんて冗談じゃないぞ!!」
 狢が比留間の腹を圧迫し、水を吐き出させる。

「息してないよ! 比留間先輩、息してない!!」
 朽名が吼えるように比留間の容態を叫ぶ。
「…ええい、御免!!」
「「「「「「!!!!!」」」」」」
 六名の絶句をよそに。
 狢は比留間の口に息を吹き込んだ。
(「ぐ、やわらかい…」)
 とりあえず弾が狢の頭を殴る。
「何するんだ!!」
「いや、何となく」

「…。二人とも、漫才はそこまでのようだ」
 それまで黙っていたマイトがようやく口を開く。
「どうした、マイト」
「あれを見ろ」
 マイトに言われるがまま、ウォルディが視線を橋のほうに向けると“イド”と対峙する神井の姿が映る。
 心なしか劣勢のようだ。ならば。
「蓮。我らのプレジデントの援護を頼む」
「おう」

「弾、ナイアー。お前ら二人はその後に続け。二段構えだ」
「おうよ!」
「了解っす!」

「マイト。喜べ、お前は最終防衛ライン担当だ。実に名誉な役回りだぞ?」
「承知した。比留間は任せる」

「明歌は俺と残れ。この眠り姫を叩き起こす」
「はい!!」
 とり得る最善であろう役回りを考えながら指示を飛ばす。後に軍神と呼ばれるであろうウォルディの、
 悪魔的指揮能力の片鱗ここにあり、と言ったところか。
「全軍起動。状況を開始する」
学徒たちの挽歌2


■ドッペルゲンガー
「…っ!!」
 対峙してから何回目かの激突。詠唱兵器が削れ、銀の粉が飛び散る。
「あはははは…」
(「何という…遠慮のなさ」)
 ぎり、と神井が奥歯をかみ締める。右手にハンマーを、そして左手には子犬を抱えながら。
 そう。

「シャ、ハ…ッッ!!」
 “イド”は『そこ』を見逃さなかった。執拗なまでに、徹底して子犬を狙う。
「ぐ…ッ!!」
 力任せにハンマーを横に振るう。守りながら戦うというのは、想像以上の消耗を招くのだ。
 子犬が自力で逃げる事を期待するのは拙い。されど。
(「このままではジリ貧だ…っ」)
 この状態で“イド”を撃退できるとも思えず。
「そろそろ勝負をつけてあげる。『先輩』」
「…ッ!!」
 せめて子犬だけでも。そう思った刹那。

「そこまでだ」
「!!?」
 雷のようなマイトの一閃。“イド”は化け物じみた反射速度で飛びのき、四肢をつく。

「こら! 役回りが違うだろ!!」
「勢いあまってな。安心しろ、後は任せる」
 狢とバトンタッチし、マイトが下がる。

「…やぁ、どうも」
「助太刀する。何しろ…」
 もともとプレジデントはデスクでふんぞり返るのが仕事だからな。そう狢がおどける。
「はは…」
 神井は苦笑して眼鏡を上げる他なかった。
 それを面白くなさそうに見る“イド”。
「狢先輩…。狢先輩は、あたしの事、理解してくれますよね?
 比留間は、あいつは空っぽなんです。あんな奴は存在していちゃいけないんです。

 自分を幸福にする事すらできない奴が。
 他人を幸福に、まして守る事なんてできるはずがない。そうでしょう?」
 狂気のにじんだ表情で、“イド”が尋ねる。雨で大気がけぶる。
 しばしの静寂。

「阿呆」
 狢は切って捨てた。
「…っ」
「見損なうな」
 抜き身の剣が。銀の詠唱兵器が。相手をぶち殺してやれと唸り声を上げて煙を吐き出す。
「俺が気に入ったイドの底はそんなもんじゃねぇ!」
「受け売りの正義で生きてる奴の底なんて!!!」

「…ほー。ならテメェの戯言なら誰か救えると?」
 我慢ならなかったのか。弾が前に出る。そして朽名も。
「比留間先輩は強いぞ。少なくともお前よりは」
「…っっっっ」
 膨れ上がる殺気。ぎり、と“イド”が歯を食いしばる。
 ドン、少年・弾の啖呵が大気を揺らす。
「『正義』を舐めるな! 贋作ッッ!!」

「こ ろ し て や る !!!!」
「「「や っ て み ろ !!!!」」」
学徒たちの挽歌3


■折れた剣
「…あっ、がはっ! げほっ…げほっ…!!!」
「気がついた!」
 人工呼吸を続けていた上澄の甲斐あってか、比留間が意識を取り戻す。
「All right.イド、生きてるな? …おい?」
 顔を覗き込んだウォルディが、異変に眉をひそめる。
 誰だ。一瞬そう思うほど絶望に疲れた少女の横顔。
「…私は」
 視点が定まっていないのか、その瞳もどこかうつろで儚げである。
「…おい!? どうした! しっかりしろ、イド!!」
「私は………」
「…。比留間さん?」

「私は…何もないんです」

■壊れた正義
「…どうした?」
 ウォルディの声を聞きつけ、後方まで下がってきたマイトが駆け寄る。
「どうしたもこうしたも…」
 ウォルディが比留間から聞き出したことを簡潔に告げる。
“イド”との対峙。敗北。そして何より、砕かれた矜持。
「…」
 比留間は決してマイトと視線を合わせようとはしなかった。
 何だ、誰だ。誰なんだこれは。これが、これが自分の『 』れた存在だというのか。

 言いようのない苛立ち。
「っ!!?」
 気がついた次の瞬間、比留間の頭に拳骨を落としていた。
「な…! ひどいです! マイトさん!!」
 怒る上澄を見ることはなく、マイトは体を返して橋の方を見る。

「…。馬鹿は殴るべきと判断する」
「それは同感だな」
「ウォルディさんも…!!」
 うつろな比留間をよそに、ウォルディはなおも言葉を続ける。
「本物? 偽者? 
 …は。そんな程度で『比留間・イド』を見失ったか?」
 心底あきれ果てた、そんな調子で肩をすくめる。
「あまり俺を失望させるな。あの訓練で見せた貴様の一撃。覚悟、生き様。
 あれがフェイクだと…? ふざけるなッッ!!!!」
 ウォルディは本気で怒っていた。許せないのだ。こんな無様な比留間の姿が。
 一度は認めた相手が落ちぶれるのが。

 比留間の襟を掴み、無理やり引き上げた。
「見ろ! お前らの為に戦っている奴らを!!」

■比留間の視点1
「もらったぁぁぁぁ!!!」
「因   果ッッッッ!!!!」
 ローラーブレードで変則的な挙動をする弾に、“イド”は何なく因果を極めた。

「~~~っっっ!!」
 ぶっ飛ぶ弾を寸でのところで朽名がキャッチする。
「顔はそっくりなのに、やっぱ違うな…。特に凶悪さが」
 嫌な汗が頬をつたう。あくまで足止め、戦闘までする気はない。そんな考えでいた。
「アアぁぁぁぁッッッッ!!!!」

 甘かった。あらゆる意味で甘かった。
 眼前の存在は、そういう手加減ができる類の相手ではなかった。
「あんななりでも…ゴーストって事、だ、なッッッ!!!」
 弾の作った隙を無駄にはすまいと、狢が背後に回りこんで“イド”の膝の側面に剣の柄を叩き込む。
「シッッッッ!!!」
 瞬間、“イド”は叩かれた方向へ回転。
(「やば…!!」)
 そのまま殴られた『勢い』を生かして。
(「い…ッッッ!!!!」)
 膝による因果が、綺麗に狢の意識を刈り取った。
「      ッッッ!!」

「狢さんッ!!」
 神井が叫ぶ。狢は大地に膝をつき、崩れ落ち…ずに踏みとどまる!
「な…!!?」
 そのまま“イド”に組み付く。
「我が剣…は…一人一…殺! 『後につなぐ剣』…ッ!!!」
 目は既に気絶している。理屈ぬきの、戦士の気合であった。
「無粋ッ!!」
 掌打が狢の顔面を打ち据える。それが最後。

「畜生…。本来なら俺が潰してやるところだけど…」
 因果をくらって朦朧とする意識の中、弾が口を開く。そして。
「生憎、お前を倒すのは『俺の』正義じゃあ、な…い…」
 がくりと、うなだれた。

■比留間の視点2
「…突破してきたか」
 マイトの詠唱兵器が点火する。比留間の戦意が回復する兆しはまだない。
「…マイト先輩。どいて」
 “イド”の詠唱兵器も銀の煙を吹き出し、動力炉が回転速度を上げる。
学徒たちの挽歌4

「何故だ…」
 マイトが唐突に口を開く。
「…何故だ、イド。何故比留間を殺す?」

 しばしの沈黙。小雨の音だけが二人の間を支配する。

「『本物』は二人も要らない」
「…なに?」
「『本人』が二人もいるという矛盾した状態は、良くない。それは世界結界からの修正を受ける。
 そして修正を受けるのは、『現時点では』まだ、あたしの方。

 だから」
 殺してあたしが本人になるのだ。笑いながら“イド”が構える。
「…。是非もないな」
 それだけ言って、マイトは剣を放り捨てた。
「…!? 何のつも…」
「ならば先に、俺の中の比留間を殺してから征け」
 拳を固める。徒手で構える。
 問題はない。剣なら心の中にある。
 問題はない。心の中の銀の剣が、この胸中で燦然と輝いているのだから。

「……覚悟完了。当方に迎撃の用意有り」
「バカね」
 数mあった間合いを“イド”が一歩で詰める。
(「見よう見まねでどこまでいけるか…っ」)
 互いの拳は既に『真剣』。勝負は一撃、一瞬で決する。

「因   果ッ!!!!」
 マイトの拳が、“イド”をとらえた。
「ぃよしッッ!!」
 ウォルディが思わず叫ぶ。が。

「肘の伸びきらぬ因果など…ッッ!!!」
 “イド”は額で拳を受け、防御していた。拳が悲鳴を上げ、マイトの顔が苦痛に歪む。
「遊戯に劣る!!!!」
 ぱん、と掌が顎を打ち抜く。衝撃は軽やかにマイトの脳をシェイクし。
「く…そ………」
 勝負を終了させた。

■比留間の視点3
「明歌。どうやら俺達の出番のようだ」
「はい!!」
 ウォルディ、上澄両名が立ち上がり。“イド”と対峙する。
 “イド”を見据えたまま、ウォルディは喋る。
「俺が出て貴様に時間をやる。『何のために戦うか』、考えろ。
 その程度、思春期と一緒に捨てて来い!!」
「………」
「比留間さん! 私、信じてますから!!」
「………」

「そんな抜け殻に…」
 額の衝撃が伝わったのか。鼻から血をこぼしている“イド”がゆらりと佇む。
 上澄は顔を上げて、堂々と向き合った。
「確かに周りに流されてそんな風にしてきたかもしれない…だけど!
 最後の一欠けらは、自分の意思で決めたと信じてるんです!!」
「それが『受け売り』だって言うんだよッッ!!!」
 踏み出した“イド”をウォルディが遮る。
 つばぜりあう蟲笛とリボルバーガントレット。
 互いがけたたましく動力炉を回して貪欲に詠唱銀を取り込んでいる。
「I Got It…! And you?(覚悟完了…。貴様はどうだ?)」
「…笑止!!」
 鞭のようにしなる“イド”の腕。ありえざる方向からの変幻自在の打撃の嵐。
 ここまでのレベルの近接戦は専門外だ。ウォルディは苦笑いしながら防御姿勢をとって耐え抜く。
「いかせない…! 絶対に!!」
 ついで上澄のブラストヴォイスが空を裂く。対峙する者に、耳からダメージを与える音による攻撃。
 人の形である以上は、音速を超えて動く事など不可能だ。ならばこれは最速にて回避不可の一撃。
「…ぐうぅ!!!」
 苦痛に顔をしかめる“イド”。真っ先に上澄を倒したいが、ウォルディがそれをさせない。
「どうだ? お前の対峙している相手、容易くはないぞ?」
「あああぁぁぁぁッッッッ!!!」
 さっきよりも激しい打撃が連続で飛んでくる。何発かは綺麗にもらってしまった。
 まずい、意識が、だめだ、まだ。
(「イド…早くしろ…ッ! あの馬鹿…がっ…!!!」)
 ゆらぐ視界の中、“イド”の拳がアップで見えた。
 次の瞬間、ウォルディは自分が地面に倒れている事に気づく。

「ウォルディさ…!!」
「双拳ッッッ!!!」
 上澄の腹部を二つの拳が打ち抜く。
「…ぁ…ぅっ…」
 息が、できない。声が。口を何回か動かすが、もはや立つ事すらかなわず。
「これで全員か!!!」
 火照った体の熱を吐き出し、“イド”が吼える。

 後は一方的だった。近づいて比留間の髪の毛を掴み、引きずり倒す。
 馬乗りになって殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る。

「戦って! 比留間さん……、戦っ…て………っっっっ!!!!」
 上澄がかすれた声で叫ぶ。
 比留間は防御する気力すらないのか、されるがままに滅多打ちされている。
「まだだ! まだ! 終わっていないぞ!!」
 歯を食いしばってウォルディが立ち上がろうともがく。
 三半規管が一時的に機能を停止しているのか、四足が精一杯である。
「そうだ! 私たちはまだ何もあきらめてはいない…!」
 互いを支えあいながら、神井たちが追いつく。
(「み、んな…」)
 薄れゆく意識の中、傷ついた仲間達の姿が比留間の視界に入る。

 口から血を吐いて弾が叫ぶ。
「立て!!」
 ―ごめんなさい。

 青アザのできた朽名が叫ぶ
「立ち上がれ!!」
 ―ごめんなさい。

 擦り傷だらけの上人が叫ぶ。
「何故戦わない!!」
 ―ごめんなさい。

 意識が朦朧としている狢が叫ぶ。
「何故戦おうとしない!!」
 ―ごめんなさい。

 水溜りにうずくまる明歌が叫ぶ。
「まだ手が動くなら! まだ指が動かせるなら!」
 ―ごめんなさい。

 大地に拳をつき立ててマイトが叫ぶ
「何故誰かよりも傷つこうとしない!」
 ―私は。

 這いずるウォルディが叫ぶ。
「立て! 立って構えろッッッッ!!」
 ―『弱い子』です。

 比留間は、声をあげて泣いた。自分のせいだと思ったのだ。
 自分が戦いから逃げたから、そのツケを友人達が払ったのだと。

■後方支援
「ク…あいつらが何か吼えているぞ」
 肩で息をしながら、“イド”が笑う。
「………」
「馬鹿な奴らだ。お前みたいな奴を信じたばっかりに。こんな目にあう」
 比留間の首を両手で掴み、力を込め始める。
「………」
 ―なんだと。
「お前みたいな奴に期待したばっかりに! 裏切られる!!」
「……ぁ」
 ―いま、なんといった。
「おめでたいアホ共! お前を殺した後に、あいつらも始末してやる!!」
「……ぅ」
 ―今、何と言ったッッッッ!!!!

「!!?」
 突然、すさまじい力で“イド”は腕を掴まれた。ガントレットを通して骨がきしむ。
 逃れようとする。できない。腕を振り解こうとする。できない。
 何だ、何だ何だ何だ何だこれは一体何なんだ!!
「お前は私の友人を侮辱したッッッッ!!!!!」
 音速よろしくの右フックが“イド”の顔面を捉えて吹き飛ばした。

「がッ!!!? な…!!」
 四肢をついて“イド”は体勢を立て直す。
「貴様は私が空っぽだと言ったな…」
 比留間が立ち上がる。
「今、また一つ、道が見えたぞ。何故私が戦うのか…」
 いつも通りの比留間が、いつも通りに構える。
 いつも通りの眼差しで、いつも通りに敵を粉砕せんとねめつける。
「我が友人達の『誇り』のためにだ!!」
 カードを取り出し、起動する。
「比留間イドという存在に優しくしてくれた人たちが、お人よしの馬鹿ではないと!!」
 大地に足を落とす。巨人のような足音。
「私の理想を理解してくれた人たちが、愚かではないと!!」
 カードの中から気合で飛び出したサングラスが着装される。
「私の拳で証明するのだ!!!」
 ガントレットが煙を噴き出し、やってやるぜと歌いだす。

「やっと追いついてきたか!」
「遅いぞ比留間!!」
 狢とマイトが叫ぶ。表情が微かに笑っていた。
「すみません!」

 ウォルディが吼える。希望で瞳が燃えている。
「征け、比留間!!

 この世でお前の正義を馬鹿にする!
 自称賢いとか言う糞どもは! 誓ってぎゃふんと言わせてやれ!!!」
「了解!!!」
学徒たちの挽歌5


■比留間復活
「ふざけるな!!」
 “イド”が吼える。
「万全の時ですらあたしに勝てなかった奴が…そんな体で何ができる!!」
 口にたまった血を血を吐き出し。比留間が応える。
「拳にて説明つかまつる!!」
「上等だぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
 飛び込む“イド”。迎え撃つ比留間。この時点で勝敗は決した。なぜならば!
「因    果ッッッッ!!!」
 “イド”の体を文字通り貫く、文句なしの一撃。
「…っ! っ…くしょぉぉ…」
 ごぶ、と血を吐いて“イド”が倒れる。正調比留間式防衛術・絶技『因果』の破壊力である。
 だがそれでも。
「まだだ…まだ…。あたしは…」
 “イド”はあきらめなかった。ぎらついたその瞳で比留間を睨みつける。
 比留間はそんな視線を受け止めて、静かに口を開いた。

「…“イド”。お前を許す。お前のその全存在と欲求を許す」
「な…」
 比留間が“イド”に寄り添う。
「だが、今は少し待って欲しい。何しろゴーストが闊歩する世の中だ。
 誰かが戦わなくては、別の誰かがそのツケを払うことになってしまう。

 そういうのは、私の流儀じゃない」
「死ぬのが…怖くないのか…!!」
 目を瞑って、“イド”が吐き出すように言う。
「死ぬのは怖い。
 それは生物である以上は避けられ得ぬ大命題。
 …でも。友達を見捨てて逃げるほど、私は臆病でもない」
 ぎゅっ、と己の半身を抱きしめる。
「バカ…そういう奴から死ぬんだよ」
「正しいから、負けない」
 理論が壊れた説明に、ただ白旗をあげるしかなかった。
「…。ばーか」
 最後の最後まで憎まれ口を叩きながら、されどどこか納得した表情で。
 “イド”は銀の粒子となって消え去った。

 比留間は空を仰ぎ、敬礼する。
 いつか他の者たちも空を仰いでいた。

 雨はやみ、雲の隙間から太陽の光が街に注ぐ。

「比留間イド。この度の不祥事により、オフィスの清掃及び改装作業…と」
 神井はそんな事を呟いた。
 一同、(青ざめた比留間を除いて)爆笑して帰路につく。

 ―完―
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COMMENT

 管理者にだけ表示を許可する
● 燃えたせいか長くなりました
比留間の中の人 | URL | 2006/10/06(金) 21:46 [EDIT]
<まとめ>
・狢氏が比留間のファーストキスをゲットした模様です。な、なんだってー!!
・ウォルディ、マイト、弾は結局会話が噛み合わないまま帰宅したそうです。
・朽名氏。おつかいの荷物どこにやりました?(ニヤニヤ
・上澄嬢もおつかいの荷物どうしました?(ニヤニヤ
・プレジデントの勅命により、結社で比留間がコキ使われることになりました。ギャー。

田吾作 | URL | 2006/10/06(金) 22:27 [EDIT]
なにこのプロヘッショナルども

外人部隊であることを、これだけ後悔したことはありません。
やっぱり友好だけじゃ限界あるよなあ…。
現状まったく顔出せて無い二つの結社から失礼して、「黄金と刃」に入るのも視野に入れるかな…。
そこ二つとはレティクルで友好結んでますのでね。

ともあれ、出演者の皆様より先にコメしてすみません。失礼しました。
● お疲れ様でした。
神井上人の中の人 | URL | 2006/10/06(金) 22:27 [EDIT]
いやはや、余裕あるうちにプレイングは送るべきと改めて思い知りましたですよ。
アツいリプレイ、ありがとうございました。
素敵。
● ほほぅ
W.W | URL | 2006/10/06(金) 23:05 [EDIT]
中々に…まぁ…悪くは無い…。

ふむ、しかしまぁアレだな。結局全防衛ラインがブチ抜かれてる。指揮官失格だな。まだまだ至らんか。

しかし、マイトとハジキは初等教育から見直す必要があるぞ。俺の運動会必勝論を全く理解していなかった!

(※マジかっこよかたす>w<bありがとうございました。イドのカッコ良さに燃え、皆のカッコ良さに燃え、明らかに苦戦してるのに余裕見せまくりなウォルディ君に萌え。

笑うトコ→カードの中から気合で飛び出したサングラス)

狢の中の人 | URL | 2006/10/07(土) 03:16 [EDIT]
おお、リプレイが早い!
ていうか、狢すご!?
ウォルディ金ぴかぽい格好が実にイイ
なんていうか、みんな熱すぎます。
ええもん拝ませてもらいました
● うおおおおおおッ!
ハジキ | URL | 2006/10/07(土) 03:44 [EDIT]
あまりのカッコよさに失禁しそうになったよ。
いやー、台詞の重要な所を『』で括ってるのが実にいい感じだぜ。

>ウォルディっち
だって俺まだ小学生だもーん(鼻をほじりながら)
● 状況終了
御剣・舞斗 | URL | 2006/10/07(土) 11:45 [EDIT]
万事収まったと判断する。何よりだ。
…負けるとは思っていたが、真逆一撃で昏倒とは。徒手戦闘の見直しが要るな。比留間、今度付き合え。
…後、コブにならん様に頭に処置しておけ。(顔背け

──ウォルディ、俺はそもそも初等教育を受けていないぞ?

(※お疲れさんでした!いやぁ、燃える。ついでにファーストキスは父母が最初と言うことで一つ!(ぉ。団長の変貌ッぷりがかなりイカス。あと『イド』可愛いよ『イド』(何)
● 荷物は雨で駄目になりました…
明歌 | URL | 2006/10/07(土) 12:39 [EDIT]
その後もちろん、買いなおしました…。
…これも訓練だと思えば…!(微妙に泣き声)
ともかく素敵なリプレイありがとうございました。
…しかし、私もまだまだですね。せめて、一撃を受けても気合で立てるようにはならないと…。

(※お疲れ様でした&ありがとうございました!もう皆さん、とってもカッコよくて素敵過ぎます!私もプレイングとか台詞とかもっと精進せねば…!せめて台詞、もっと短くしないと…(吐血))
● すげー
鳳凰堂の中の人 | URL | 2006/10/07(土) 16:53 [EDIT]
リプレイすげー、と参加できなくて後日談だけ聞いた駄目な子が言ってみるテスト。
どの方にも見せ場があって、打ち破られたとしても諦めずイドさんに向けて呼びかけ続けていたシーンでは思わず手に汗目に涙。
しかもちゃーんと挿絵つきだし。
改めて、リプレイすげー。
● レスレス
比留間 | URL | 2006/10/08(日) 17:56 [EDIT]
>田吾作さん
我らは戦友をいつでも歓迎します。

>神井上人の中の人さん
(`・ω・´)b

>W.W君 / 気合で飛び出したサングラス
気合の入ったサングラスに不可能はないのですよ。おそらく。

>狢の中の人さん
狢先輩は海に流されずにすんだようです。
無事で何より。

>弾君
勉強してください。せめてウォルディ君と会話が成立するくらいまでには。(ぇー

>マイト / 頭に処置
Σ ぎゃぼー!!?
いや私にそんな芸当ができるのかどうか怪しいのですが…。

>明歌さん
も、申し訳ない…。次のおつかいの時は、手伝いますので…。

>鳳凰堂の中の人さん
次のPSの時には、是非に参加を狙ってください!

朽名 | URL | 2006/10/11(水) 00:06 [EDIT]
何が1番驚いたって、空中で狢先輩に挨拶されたことです。
あー、びっくりした。
荷物は…、放り出してぐちゃぐちゃになったまま持って帰って、たっぷり怒られましたよ。


(※熱いリプレイもさることながら、挿絵まで入ってすばらしいです!!おつかれさまでした)

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